平安前期までの文書・典籍にみえる印影一覧を作成し、これにそって写真の収集・整備を行ない、一部について原本の調査を行なった。また既往の研究史を補うため、これまで比較的研究の手薄な江戸時代の印譜・印史類や、出土印章に関する文献についても、未刊資料を含めてリストアップし、調査と資料収集を行なった。 中国史料にみえる印影についても、比較研究に資するため、英・仏所在の敦煌文献を中心に写真収集に努めたが、撮影状態が必ずしもよくないため、充分所期の目的が達せられたとはいえない。 本研究における最も大きな成果としては、東京国立博物館所蔵の香木に押捺された焼印に関する新知見があげられる。香木は2点あり、いずれももと法隆寺伝来で、各々に銘文と焼印のあることは古くから知られていたが、とくに徹底した研究はなされていなかった。古代における焼印の遺存例は現在これのみであるので、今回この香木2点を実物において調査し、その材質が白檀であることを確認すると共に、写真撮影を行なって検討を加えた結果、焼印の文字は7〜8世紀のソグド文字であることを確かめることができた。日本の律令制下の焼印とは直接結びつかないが、焼印の使用例として意義深く、これを手掛りにして焼印の機能のみならず、古代における香木輸入の実態や、さらにはソグド人などによる通商活動まで究明することができる。この成果は別掲の論文で詳細に発表する予定である。
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