研究概要 |
ベトナム黎法の研究には、まずその中心的法典である国朝刑律制定までの法の生成・発展の歴史を考察し、ついで国朝刑律の諸条文の校合・吟味、そしてそれを基礎とした黎法の体系とその特徴を具体的に検討することが肝要である。86年度の補助金交付により、上記の研究課題にかかわる基本的文献を内外より入手し、それを整理の上、次の諸成果をあげることができた。 1.これまで未開拓の研究分野であった中国支配下のベトナム法に関する論考を発表し、中国法の導入経過とその特徴,在地の法の存在とその機能,両者の摩擦などの諸問題を考察し、黎法成立までのベトナム法の歴史的発展過程を跡付けてみた。 2.国朝刑律所載の諸条文の正確な解読に努め、その成果の一部を86年度刊行の拙著に反映した。 3.国朝刑律の解読過程の一産物として、賭博律をめぐる小論を草したが、これは、本研究課題における一問題である民衆と法意識の問題を検討するためにも、いささか寄与することができたのではないか、と考える。 4.黎法に関しては、訴訟制度をはじめとする法的諸制度・諸機構の全貌が明らかにされておらず、個々や具体的な問題で分明でない点も少なくない。監獄に関する論稿は、こうした側面から黎代の法的諸制度を解明し、その法の全容を理解するための一環であるが、かかる研究の蓄積も黎法の体系的研究に欠かせない作業であろう。 来年度は、本年度の成果を踏まえ、国朝刑律の条文解読をすすめ、とくに民衆の生活・意識と深くかかわる条文を重点的に取りあげる一方、これまで顧みられることのなかった法制史料、たとえば古黎律例の史料的価値を検証し、黎法研究のための新たな史料の発掘にも励み、科学研究費補助金の交付にこたえたい、と思う。
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