研究概要 |
後期旧石器時代のナイフ形石器群の技術基盤は, 従来考えられていたように石刃技法-ナイフ形石器という単純なものではなく, 1.石刃技法-ナイフ形石器, 2.盤状連続横打技法-白形(様)石器という二極構造になっている. この構造の発生は前段階, すなわち中期旧石器時代の斜軸尖頭器石器群の技術基盤まで遡って追求できる. つまり, 最終形態が円盤形石核となるよう剥離が進められて生産される斜軸尖頭形の中型剥片を素材とし, その形態を活かして二次加工により尖頭器・削器を製作する過程と, 剥離の進んだ円盤形石核あるいは打面と作業面を交互に換えながら剥離をすすめ, 最終的にチョピング・トゥール状石核を生じるような剥離により生産される台形や鱗状の小型剥片を素材とし, 側辺のみ加工して鋭い縁辺をそのまま刃部として用いる素刃石器を製作する過程との複合が, 斜軸尖頭器石器群を特徴づけている. 前者は技術の洗練にともない, 長形の三角形剥片を生産するようになり, 特徴のある尖頭器・〓器の素材から独立していく. 後者はシステム化して盤状剥片を石核素材とする横打技法を生み出し, 台形・超横長・尖頭形切出形など様々の形態の剥片を生産して, 多様な機能に応じた素刃石器を作り出すようになる. これが移行期の様相である. 盤状連続横打石核から生産される台形剥片は, 基部加工により台形(様)石器に, また, 超横長剥片を用いた素刃石器は同時に発達していた〓型石刃石核から生産される縦長剥片を素材とし, 基部を加工することによってナイフ形石器の〓型となっている. 日本のナイフ形石器群は大陸からの伝来ではなく, 中期旧石器時代の斜軸尖頭器石器群以来の伝統の中から移行・進化してきたものであることを, 多くの石器資料を比較し, 具体的に提示しながら明示することができた. これは従来の「前器旧石器」観, ナイフ形石器の発生論を根本からくつがえすものである.
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