「繩文時代貝塚出土の貝製品に関する用途的研究」を3年間行なってきた。最終年度はこれまでの調査資料を集積し、貝塚群と貝製品に諸要素を総合的にとらえ、貝製品の用途および繩文時代におけるそのあり方について考究し、本題の解明を計ることとした。調査により新たに得た知見は、次のとおりであった。 (1)北海道地方および九州地区南部(沖繩県を含む)の貝塚群は独特の地域文化を存し、四国、本州などの繩文文化と一律に対比できないところがある。 (2)貝塚群において立地環境の異なる貝塚では、貝製品の種類にも差異が認められる。 (3)生産用具的貝器の貝種類は、貝塚産出の構成貝類種とほぼ一致する。しかし、装飾用具的貝器の貝類種は必ずしも一致しない。 (4)生産用具的貝器のうち、最く多く出土する器種は貝刃で、関東地方と東北地方の貝塚群に顕著である。 (5)装飾用具的貝器のうち、最も多く出土する種器は貝輪で、東北、関東、東海、北陸、四国、瀬戸内、九州などの各地方に広範囲に分布している。 (6)貝刃と貝輪は形態分類、製作手法、使用痕、出土状態などから機能および用途に関する類推が可能である。 (7)繩文時代における生産用具的貝器や装飾用具的貝器などの貝製品は、石器や骨角器に比べ種類、数量とも劣性であるが、繩文時代の生活用具の一部としてある程度固定的な位置を占めていたものと思われる。
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