現地調査にはいるまえに、松本・金田は、未公刊のものもふくめて、文字化された口承文芸資料などにあらわれる各方言の用例チェックをおこない、各自がいままですすめてきた諸方言の文法記述の点検、みなおしをこころみた。その結果、語形の用法を中心とした形態論的な記述を今後もすすめることの重要性と有効性が、あらためて確認された。この作業のなかで金田は、既刊の東北方言むかしばなし集のカナでの方言表記について、もとのかたりに忠実な、正確な表記をめざしているかどうかを検討し、それらがどの程度方言資料として利用できるかをたしかめた。松本は口承文芸資料以外にも、用例を多数のせた方言集、方言辞典が、文法記述上つかえることを、長田須磨ほか『奄美方言分類辞典』本文から「シテアル」にあたる形式の用例をあつめて検討した結果、確認した。 現地調査は東北を金田、奄美を松本で分担したが、共同で調査する予定だった八丈は、研究費のつごうで金田にまかされた。作業は、上記の文法記述の点検、文献方言資料の偵察をうけての、方言現象の現地での確認に、もっぱらついやされた。その結果、いままでの調査もれ、記述のあやまりを訂正することができたが、松本・金田ともに記述の領域が、すでに形態論の全域におよんでいるため、この作業はなお継続されなくてはならない。 各方言インフォーマントのなかに、独力で方言集・方言辞典の作成にとりかかって、高齢にしていまだ業なかばというかたがめだつ。来年度は、おもうようにすすまなかった口承文芸の採集とともに、こういうしごととも緊密な連絡をとっていきたい。そのなかには、方言集・辞典のみだし、用例をすべて録音して、テープ化し保存するという作業もふくまれる。
|