琉球方言の中でも特色音声の著しい奄美大島・徳之島と宮古島の音声を周到な準備のもとに録音し、音響分析機器とパーソナルコンピュータによって特色音声に関する大量のスペクトル分析結果を得た。典型的なもの(奄美大島・徳之島・宮古島の中舌化母音つまり[【I!¨】:][【e!¨】:]等)の音響的静特性および動特性を把握するための見通しを得た。具体的には以下のとおりである。 調査のために、今石元久編『音声調査票(日本語方言音声スペクトル分析用)』を修訂し、かつ特色音声を目当てとする約500の専用調査項目を選定した。音声資料は、高校・中年・老年・高老年の男性の中で好条件の人を選出して得た。その他では、自然談話の収録も行った。特色音声の聴取では、機器導入により聴取率が飛躍的によくなり多くの音声記述を行った。琉球の音韻研究の第一人者中本正智氏他より聴覚的音声記述の協力を得て、分析結果に付与された音声記号の信頼性も一段と高まった。 音声分析に関する研究成果では、大きく二つに大別される。一つは、分析システムの開発に成功したことである。既設デジタルソナグラフ7800(Kay社)による分析手法はすでに確立しているが、岩手大情報工学三輪譲二氏から技術援助を受けて、パーソナルコンピュータでも音声分析を可能にし実用化した。このようにしてLPC分析を文科系にて行ったのはわが国で最初になるであろう。これをInteractive SpeechAnalysis Systemと言う。そして、二つにはパーソナルコンピュータや音響分析機器を駆使し、奄美大島・徳之島等のスペクトル分析を試みて、多くのソナグラムとホルマント周波数のデータを得た。アルバイト費により実験補助員が雇用され、A/D変換されたものがフロッピーに大量に格納された。
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