研究概要 |
『矢楽園』の登場人物の思想、或いは、哲学がどのような表現によって表わされているか、そして、登場人物の相互関係がどのように『失楽園』全体のモラルを表現しているか、という視点から、サタンの調査を行なった。 "Man's Worship of God and Idolatry in Paradise Lost"(未発表)で、筆者は、次の事を指摘している。サタンは、神の崇拝という被造物の義務を忠実に行なうアダムとイーヴとは対照的な、自我に囚かれた人物であり、この事は、レトリックの分割相の使用に典型的に表われる。 "'To Thy Self Enthralled':Satan's Self-Obsession in Paradise Lost(今秋印刷予定)は上記論文で触れた「自我の奴隷」となったサタンのテーマを扱ったもの。サタンのこの面は彼の3つの言語使用に表われる-(1)比較法、(2)epideictic rhetoric、(3)彼の心を占めている3つのキーワード。(1)について:サタンの自我意識は断えず自己を過去の自己、或いは他人と比較する傾向に表われる。 (2)について:アリストテレス『レトリック』が分類している3つの弁論の1つにepideictic(賞賛の)弁論がある。サタンはこの弁論のレトリックを自分をよく見せる為に使って、部下から礼讃を得ようとする。 (3)について:サタンの心は、神の御子と人間に対する"envy,"復讐、悪意に満たされている。彼は、この3つに取りつかれている為、神の意図を推測する時にも、自分が取りつかれている妄想に支配されて、神の意図を正しく理解できない。 来年度からは、サタンの他の面-例えば「英雄」性-に調査を広げながら、彼と対極に位置し、『失楽園』の世界すべてを支配している、神と神の御子のモラル、或いは、イデオロギーとその表現の調査に中心を移す。
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