日本人児童で英国や米国・カナダなどに3年から9年滞在した後帰国した子供がいかにして英語を失っていくか、その現実の姿を記述し、そのメカニズムを明らかにするのが本研究の理想である。3年間の長期研究が認められているので、初年度は、これら小学生数名を対象に大体1ヵ月または2ヵ月に一度の割合で英語によるインタビューをし、一般会話及びストーリーを話してもらうことにより英語の記録をとった。各人、大体20分から30分のテープをとり、それをネイティブ・スピーカーに依頼して書写してもらい、さらに、彼らから見て不自然な英語や、児童の発音のくせなどを指摘してもらっている。このようにして、資料を蓄えることを繰りかえし行っている。現在までに、大体判明していることは、児童で滞在期間が3年程度とそれ以上の場合に、英語力の保持に差がでてくる。その徴候は、單語をえらぶようになる、時々つっかえて英語が出なくなる。本人も英語を失いつつあると意識するという自覚的な面にあらわれるほかに、書写された英文でも、單文が多くなる、同じ單語をくりかえし使用するようになるなどが見られる。一方滞在が4年以上の児童でも、本人はやや失っていることを感じるようだが、実際のコミュニケーションにはさしつかえがない。3年以内の児童、中学生や高校生で帰国者についてのインタビュウ調査やアンケート調査などは、第2年目で行うとともに、すでに行っている長期調査は続行する予定である。それによって、すでに研究がかなり進んでいる第2言語の習得の経過とそのメカニズムについての仮設が、第2言語の喪失とどうかかわるか関係をも分析してみていく。
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