本年度のこれまでの研究を通じて明らかになったのは次の点である。その第一は、現代のイタリアにおいて、先進資本主義諸国のイギリス、日本等と共通して、議会の機能と役割の再検討が国政上の重要問題となっており、一昨年(1985年)に上下両院合同の議会改革委員会の最終報告書が出され、その一部分は事実上、すでに実施に移されつつあることである。その重要点は内閣権限の強化と議会の有効な活動の強化、二院制問題であり、その改革の方向をめぐって重要な対立が諸政党閣に存在し、それは戦後イタリア議会と政治の歴史的な評価と総括と密接に関わっている。つまり、戦後のイタリア共和国の国家構造の再編成の課題と関係しているのである。第二は、議会と政党を中央レベルでだけでなく、地方レベルで、とりわけ1970年代に導入された州制度の実情を具体的に把握することの必要性が明らかになった。歴史的に機能が不十分であった国家官僚制と政党制は、戦後の改革を通じても十全に発展することがなかなか困難であったが、ある意味では州制度の導入を通じて「参加」が現実のものとなり、議会と政党制の機能が一方では低下と言われながらも、他方では再活性化しているのである。この点では、国民投票制度の有効な活用も論点の一つとなっている。 昨年度の関連資料の購入と夏の訪伊を通じて、議会改革に関する議会改革委員会報告書および諸文献の一次資料を入手することができた。今年度は、上記の研究成果を踏まえ、改革に関する諸議論の問題点を明らかにすることとともに、議会と政党制の具体的機能を、具体的な数量的データをも整理することによって、今日のイタリア議会と政党制を取りまく問題状況の解明を行う予定である。なお、研究成果は来年度発行予定の日本政治学会の年報と広島大学法学部の紀要に発表する予定である。
|