1.『会社職員録』より、役員およびその他の管理職について、個人別に最終学校卒業年次と入社年次とを調べ、その差をとることによって転職経験の有無を知ることができる。本研究の中心的テーマの1つは、経営のトップおよびミドル層が転職経験者を多く含んでいるか否かを吟味することによって、転職と昇進の可能性を検討することである。現在までのところでは、建設業・食料品・繊維・化学・鉄鋼・商業・金融等の諸産業につき、データの整理をほぼおえることができた。 2.転職と昇進の関係は産業によってかなり異なっている。建設業の場合には転職経験者でもかなりの数のものが役員にまで昇進しているが、金融業ではこれらの数はかなり少ない。また転職と昇進の関係は企業の年令(設立年次が古いか新しいか)にも依存しているので、この点も考慮する必要があると思う。いずれにせよ転職経験者の割合を産業別に集計し、それと各産業の移動率との関係を吟味し、「はえぬき」登用の原則が労働市場の流動性に及ぼす作用を数量的に検討することとしたい。 3.労働市場の流動性は企業内の賃金構造によっても影響されると思われる。流動性の高い労働者はフラットな企業内賃金構造を好むし、定着性の高い労働者は傾斜のある賃金構造を選択するに違いない。これはいわゆる自己選別の理論の主張するところであるが、労働流動性に関する研究の一環として賃金構造の分析も試みた。それによれば、わが国では勤続要因の差に帰着できる賃金格差部分はあまり大きくないこと、大企業賃金は初任給もその後の賃金も小企業より高く、自己選別理論が想定する機能を十分に果たしていないこと等が明らかにされた。
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