1.家計の住宅購入行動は家計貯蓄率の問題とも密接な関連があるが、本年度の研究においては特に消費者金融市場の不完全性ないし流動性制約という条件を理論モデルに組み込んだ。具体的には、勤労者世帯が民間金融機関の住宅ローンを借りて住宅購入を行う場合には借入額、完済時期についていくつかの制約が加えられ、無制限に住宅ローンを組めるようには制度上なっていない。例えば住宅ローン借入額は年収の3倍以内であるとか、住宅ローンの完済時期は退職年齢と大きく隔らない60歳台の前半までに設定される。 年収制約や年齢制約が、制度上、住宅ローン借入にあると、勤労者の住宅購入時期はほぼ30歳台から40歳台の前半までに制約されることもデータから明らかになった。また、計量モデルによっていくつかのシミュレーションを行った結果、住宅購入価格自体の低下の方が住宅ローンの金利の低下よりも相対的に住宅取得行動に大きな効果を及ぼすことが分った。 2.次に老後の生活水準に大きな影響を与える高齢者就業の趨勢と公的年金の関連を分析した結論を概略しよう。公的年金が高齢者の就業に及ぼす影響については日本でも研究が進んでいるが、公的年金が高齢者の労働供給を明らかに減退させること、高齢者が在職老齢年金の収入制限に合わせて労働供給することなどが明らかになっている。しかし、高齢者の労働供給の趨勢低下に及ぼす公的年金の役割を考察するためには、更に次のことが確認されなければならない。年金給付の労働供給に与える影響は時点間でどう変化しているか、高齢者の就業行動の年金給付に対する反応の大きさが過去と現在で同じか、変わってきたか、変わったならばどの方向に変化したか、である。 結論として、昭和50年代前半から50年代後半にかけて、年金制度の充実とともに、反応の弾力性が絶対値で大きくなり、現在では-0.20から-0.25の値で安定している。
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