第1に、景気循環過程にしたがい経済動向を分析した。1953年中頃からアメリカ経済は、戦後2回目の景気失速を経験したが、1955年ごろから、資本家の蓄積需要に支えられた本格的景気高揚期をむかえた。この時期の景気高揚は、政府の積極的金融財政対策に基づくものではなく、革新的技術の登場による新生産物の開発・新生産動力の発展によるものであり、アメリカ経済の全般的な活況をもたらした。1957年秋からひきおこされた景気の落ちこみは、従って、資本家の蓄積需要の減退によるものであり、総需要の落ちこみとともに全般的過剰生産へと発展した。かくて、アメリカ経済の中軸を占める独占企業は、労働者を解雇、生産高を低下させることで独占価格を維持せんとした。この時期生じた物価の下方硬直性は、この独占企業の行動様式と関連を有した。 第2に、この景気循環過程にあわせてアメリカ政府の経済政策とりわけ財政・金融政策を分析した。1950年代アイゼンハウアー政権下の財政政策は、均衡主義を基調とするものであった。事実1956・57の両年度は、財政は黒字を示したのであり、金融政策も「ビルズ・オンリー」という自由市場優先の政策であった。しかし、1957年からの景気の急激な落ちこみは、金融当局の政策を転換させ、財政も拡大的なものへと変化した。翌年5月の急激なV字型の工業生産は、この経済政策の転換に負うところがおおきく、したがって、深部からの景気回復とはならず、1960年から61年にかけて景気は失速することになる。 1961年ケネディ政権の登場、そしてポスト・ケインズ的財政・金融政策展開の経済的必然性は、まさしくその1950年代のアメリカ経済の展開過程そのものにあったというべきであろう。
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