研究概要 |
昭和61年度の研究課題は、1.関連資史料の収集・整理、及び2.分割占領下における占領目的の転換(非ナチ化の後退と冷戦体制への組入れ)、通貨改革と両ドイツの成立、エアハルトの下での経済の奇蹟あたりまでの歴史の概観であった。1.に関しては、H.Grieser,Literaturberichtや各種カタログを手がかりにかなりの成果を収めることができた。2.についてはさしあたり次のようにまとめておきたい。(1)1945年2月のヤルタ会談によって、基本的にスターリンの思惑に添って、現在のようなヨーロッパの、従ってドイツの領土区分がほぼ確定する。(2)1945年5月7日にドイツは無条件降伏し、米英仏ソの4カ国によって分割占領された。その際、非ナチ化・非軍事化がさしあたり連合国の主たる占領目的をなしていて、経済の民主化、つまり反独占=経済権力の集中排除・分権化--これには政治における地方分権化が対応--が最も重要な政策課題のひとつとみなされた。ここで興味深いのはドイツ側の対応であって、社会民主党系の政治家や学者はこの反独占政策を大企業体制=帝国主義という発想から、他方オルド派は独占=自由な経済秩序の阻害要因とする立場からそれを支持した。このような立場の相違は今後(昭和62年度以降)「社会的市場経済」の形成と展開を考察するうえで重要な論点を形成することになろう。(3)冷戦が深刻化するなかで、特にマーシャル・プランを転機に西側占領地区は急速にアメリカへの依存度を強める。確かにそれによって西ドイツの経済複興の足取りは速められたが、同時に反独占政策は後退し始める。この過程の背後にアメリカ資本の利害がうごめき、他方で消費志向的なアメリカ文化もメディアを通してドイツ人の生活に入り込んだ。(4)47年1月に米英占領地区が統合される。48年6月には通貨改革が実施されて、東西へのドイツの分裂は決定的となる。49年4月に仏占領地区も統合され、同年5月にボン基本法が採択さる。
|