本年度の研究では財務会計情報の所得(負担)配分機能がドラスティックに発現した近年の事例としてわが国の電電公社の民営化会計を、2兆5千億円に達していた設備負担金の処理の顛末に焦点をあてて、調査・分析した。そこから主に次の二つの結論が得られた。 1.2兆5千億円に達した設備負担金を資本剰余金として処理していた旧公社時代の会計方針が民営化を機に圧縮記張処理に改められることがなかったため、新会社(NTT)の1株当り純資産は圧縮記張処理が採用された場合と比べ約3倍の値となること。そして、げんに成立したNTT株式の超高値(119万円)を類似会社比準価額方式で分析してみると、NTTと類似会社の間での上記1株当り会計情報の格差がNTT株式の公開価格を類似会社の高株価をも上回る高水準へおし上げる作用を果したと孝えられること。その結果、政府は現物出資の対価として取得したNTT株の2/3の売却をつうじて、旧公社における持分(薄価自己資本)を回収したうえでさらに7兆円を超えるキャピタルゲインを得ると試算されること。かくして、民営化の際の設備負担金の会計処理のいかんはNTT株の市価形成と政府に帰属する売却益もしくは税外歳入の多寡を左右する重要な役割を果たしたといえる。 2.NTTが近い将来、他の公益事業にならって、レートベース方式の料金決定原則を採用すると想定すると、民営化の際に巨額の設備負担金が米国の公益事業では通例となっている圧縮記張に充てられなかったことは、それだけ公正報酬の算定基礎としてのレートベースの縮少=料金引き下げの可能性を閉ざすことを意味した。 今後引き続き、同旨のテーマを1930〜50年代の米国公益事業の分野でのオリジナルコスト原則を素材に研究してゆく予定である。
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