クェーサーや活動銀河中心核において大質量ブラックホールの近傍に生成される相対論的プラズマの性質を調べた。コンプトン散乱や電子陽電子対発生などの素過程をくみいれた非定常放射輸送の数値計算コードを開発し、有限の大きさを持った相対論的プラズマの時間発展および定常状態の内部構造を調べた。初期にイオンを瞬間的に過熱した場合、そのエネルギーは初期のトムソン時間の約10倍程度の間に電子および光子に輸送され、約20%が対発生に使われることがわかった。定常構造については、求められたイオン温度、電子温度、対密度、放射スペクトルの空間分布を一様モデルと比較すると同じ過熱率に対して中心部でより低温になり、対密度は大きくなることがわかった。また対大気は光子の方向分布が非等方になるため予想ほど発達しないことを見い出した。 この結果を2温度降積円盤モデルに適用し、電子陽電子対を考慮したときの円盤の構造を調べた。中心天体の重力の下での円盤の力学的つりあいを同時に考慮して解き、降積率が大きい時には定常解が存在しなくなることを発見した。定常解の許される最大降積率は、主たる放射過程が制動放射の場合でもサイクロトロン高調波のコンプトン化による場合でもエディントン光度の数%にすぎない。解の存在しない理由は期待される電子温度は光学的厚さに対して対平衡が許されないことによっている。 この結果は大きな降積率に対して降積円盤がどのようにふるまうのかという問題を提起したことになる。その可能性の1つとして円盤からの恒星風的な質量放出について簡単な場合の流体力学的検討を行ない、円盤の温度が高い場合にはかなりの量の物質が中心天体に落ちこまずに外部に放出されうることを見い出した。さらに詳細にこの問題を研究することが今後の課題となっている。
|