恒星大気の分光学的研究は近年の観測技術の進歩と、実験などによる物理学的基礎データの精度の向上に助けられて目ざましく進展した。観測技術の進歩のひとつは、大気圏外に打ち上げた人工衛星によって紫外線スペクトルの観測が可能になったことである。とくに、1978年にNASAーESAーSERCが打ち上げたIUE(Internaional Ultraviolet Explorer)衛星は多数の恒星の紫外線スペクトルを高分散(分解能0.1ないし0.2A)で観測し、多くの新発見をもたらした。化学特異星(CP stars)の分野でも、地上からの観測では知られていなかった多くの元素の組成異常があきらかにされつつある。本研究の期間中にIUEのデータを使って、ガリウム、亜鉛、水銀の組成異常について詳しい研究を行なった。 地上観測では、写真乾板に代わって固体素子を用いた検出器が使用されるようになり、観測精度が飛躍的に向上した。岡山天体物理観測所の188cm望遠鏡のクーデ焦点には1986年にRCA社製のCCDが装備された。これを用いた観測に1986年春のテスト観測から参加し、CCDの性能の検定などを行なった。しかし、86、87年には天候に恵まれず、恒星のデータはとれなかった。1988年にいくつかの化学特異星を含む12個のA型星の近赤外線(波長8700A近辺)のスペクトル観測を行なった。この波長域には、窒素、硫黄、鉄などの吸収線が含まれており、これらの定量的解析を行なった。いくつかの星で窒素および硫黄の組成異常が検出された。これらの元素の定量解析のデータはまだほとんどない状態なので、この波長域の観測をより多くの星を対象として今後も継続する予定にしている。
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