3年の研究期間(昭和61〜63年度)のうち、61年度には、まず研究セミナー「重力理論と初期宇宙」を開催して、約20名の研究者と、研究課題にかかわる研究の現状、今後の方針を検討した。また、研究を順次進め、62、63年度にわたって、次の5項目の研究を遂行した。 1.初期宇宙、とくにインフレーション期における密度ゆらぎの量子論的発生について研究。また、量子的ゆらぎの古典化についても研究した。 2.バリオン・光子・無衝突ダークマターからなる宇宙における密度ゆらぎの時間発展を、ゲージ不変な方程式に基づいて調べた。再結合期の前から解き始めて現在のゆらぎの値を求め、宇宙背景放射の非等方性の度合を決めた。この値を観測値と比較して、ゆらぎの性質を調べた。 3.非一様な宇宙における観測量の間の関係式を、ゲージ不変な方式で求め非一様性が観測に及ぼす効果を、線型近似の範囲で明らかにした。 4.大きい非一様性をもつ宇宙の力学的進化を調べるため、N体シミュレーションの方法を用い、数値計算のプログラムを開発した。それを、約千個の銀河団からなる系に適用して、宇宙の大規模構造を再現することに成功した。 5.非一様な宇宙の観測には、大きい非一様性が重要な役割をするので、上記のN体シミュレーションによって導いたモデル宇宙の中での光の伝播を調べて、非一様性の観測に及ぼす効果を調べた。この研究には、非線型性が充分に考慮されており、光の伝播には重力レンズ効果が含まれている。 今後、以上の研究をもとに研究を発展させ、とくに重力レンズ効果に注目して進めたいと思う。
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