研究概要 |
η中間子がπ中間子に比べてなぜ非常に重いかはU(1)問題と呼ばれ, ハドロン物質の重要な問題である. この問題は, 擬スカラー中間子では, フレーバー一重項のη中間子がフレーバー多重項のπ中間子の4〜5倍以上重いのに, ベクトル中間子ではフレーバー一重項のω中間子がフレーバー多重項のρ中間子とほぼ縮退しているという2つの問題を同時に解決することが必要である. この問題を解決する為に, クォーク・グルーオンの基本法則と考えられている格子ゲージ理論を用いて, 解析的方法と数値的計算を組み合わせることにより, η中間子がπ中間子に比べて非常に重いのは, 格子上にインスタントンが存在すること, uクォークとdクォークの裸の質量が非常に小さいことによることを明らかにした. また, ρ中間子がω中間子と縮退する理由も明らかにした. 更に詳しく述べると, グルーオンの作用としては, 本人が提唱したくりこみ群によって改善された作用, クォークの作用としてはウィルソンによる作用を用いた. クォークの伝播関数のスペクトラム展開をまず導き, スペクトラムとゲージ場の位相との関係(アティヤ・シンガーの定理)を格子上で調べた. この結果により, 位相的自明でないインスタントンの寄子がU(1)問題の解析で重要なことを解明した. 最後に8^3×16の格子上でクウェンチ近似で数値的に, η, π, ω, ρ中間子の伝播関数を具体的に計算し, 上に述べた結論を得た. 更に, 8^3×16の格子上でクォーク・ループの影響を含めfull QCDで, U(1)問題をランジェバン方程式を数値的に解析することにより調べた. トボロジカルな電荷と, クォークの伝播関数のスペクトル展開の極との関係などの一般的性質は, クウェンチ近似と同様の結果を得たが, 伝播関数の統計的ゆらぎが大きく, 定量的結果を得るには, 統計量をよほど増さなければならないことが分かった.
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