神岡チェレンコフ検出器で観測された荷電粒子から、チェレンコフ光量、そのパターン、光電管への到達時間情報を電算機で解析し、神岡検出器の主タンク内で停止した荷電粒子の事象をとり出した。 〔I〕これらの事象の時間情報の解析を行ない、ミューオンとその崩壊により生じる電子を弁別し、ミューオンの崩壊曲線を得た。μ^-はμ原子をタンク内の水中で形成し、原子核に吸収されるため、μ^-固有の寿命より短くなることを用いて、μ^+/μ^-比を1.34±0.13と得た。この値は地上で磁石を用いて得られている測定値と一致している。 〔II〕一次宇宙線と地球大気の原子核との反応によるK中間子とπ中間子の生成比を求め、1〜10TeVでの原子核反応の機構を知ることを目的に、μ-e崩壊での電子の角分布をもとめ、ミューオンの偏極を調べた。ミューオンの崩壊で生成される電子は0〜53MeVと低エネルギーであり、太陽ニュートリノの観測と共通の問題をもっている。μ-e崩壊事象の解析の結果は(1)得られた電子のエネルギースペクトルはモンテカルロ法によるシミュレーションの結果と一致し、神岡検出器の低エネルギー荷電粒子のエネルギー測定が正しいことを示した。(2)生成電子の角分布は、チェレンコフ光の形状および時間情報を用いて求めたが、正しい角分布が得られなかった。その原因は検出器の壁面近傍での事象に対して電子走行方向を正しく与えないことがわかった。データ量を減らすが、検出器壁面から2メートル以上内側のデータだけ選択することにより、ミューオンの偏極P[^<-]>=0.30±0.11を得た。これよりK/π比は0.52±1.22と得られたが、現在このK/π比の値を改善するよう事象数を増やしている。
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