研究概要 |
CR-39は重荷電粒子に対する飛跡検出感度が高く, また電荷の分解能に優れており宇宙物理, 素粒子物理, 地球物理, 医学, 工学の広い分野で応用されている. CR-39より感度の高い検出器が得られれば, 検出できる粒子のエネルギー範囲が拡大し, さらに広い応用分野が開けると期待される. このため新しい高感度飛跡検出器の開発を目指して研究を進めてきた. CR-39と同様な熱硬化性樹脂に注目し, 熱硬化性ポリエステル(DAS,DAA), 熱硬化性ポリカーボネード(PrAC,BuAC,PeAC)などの新しい熱硬化性樹脂を合成し, 重合して, 樹脂の分子構造と飛跡の検出感度の関係を系統的に調べてきた. その結果, カーボネート結合よりも放射線に対してさらに敏感な結合形式を導入する必要があることが分った. このため東レ基礎研究所の協力を得て, スルフオネート結合を含む新しい樹脂DEASを合成した. SR-86と名付けたDEASとCR-39の共重合体は, 1〜6MeVのアルファ線, 1.7GeV/nの鉄イオンに対してCR-39の約3倍の高い感度を示すことがわかった. これは現在世界で最も高感度の固体飛跡検出器であり, 研究の目的を達成することができた. ただし, 予備的な測定では, この新しい検出器SR-86は高エネルギーのプロトンや低Zの粒子に対しては感度が低いようであり, 高感度の固体飛跡検出器として完成させるためには, さらに改良を加える必要がある.
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