研究概要 |
本研究は, いわゆるスピン偏極トンネル分光をアモルファス磁性合金など強磁性合金へ適用し, その電子状態に関する知見を得て, 磁気的諸性質に関する基礎的理解を得ようとするものである. 本研究では, 従来報告されている[超伝導Al]/[Al_2O_3]/[強磁性金属]型のトンネル接合試料では, 薄いAl_2O_3トンネル障壁を破壊せずに, 任意の試験対象強磁性金属電極を形成するのが困難であることを鑑み, より経時変化の少ない, より適用範囲の広い接合試料作製技術の確立にまず主眼を置いて研究を進めた. そのため, 昭和61年度は, 交付を受けた科学研究費補助金によりロックインアンプを購入して測定電気回路系に導入し, 変調方式によりトンネル分光スペクトルの微細観測を可能にした. 又, 低温測定系を改良し, 15KOe以下の磁場中で, 約1K〜300Kの温度範囲で, パソコンによる自動測定を可能にした. 次に, 昭和61年度から62年度にわたって, 上記に述べたようなトンネル接合試料作製技術の確立に相当の時間をあてた. その結果, 試験対象となる強磁性金属電極をまず作製し, この上に数10A2F2のAl膜を真空蒸着し, これを大気中酸化してAl_2O_3の絶縁障壁を形成するという新しい方法を考案した. この方法によれば, 上記の従来の方法と異なり, Al_2O_3のトンネル障壁を破壊せずに良質で経時変化の少ない接合試料を作製できることが分かった. 又, 研究の過程で比較のために, Ni電極表面を大気中酸化して形成したNiO層をトンネル障壁とするNi/NiO/NiおよびNi/NiO/Coなどのいわゆる強磁性トンネル接合を試作し, 新しい磁気抵抗効果など興味ある結果を得た. アモルファス磁性合金膜については, スパッタ法によるもの, イオン注入法によるものなど種々の試料を作製し, 基礎的な磁気測定, 構造観察などは完了しているが, これらのトンネル分光については現在なお続行中である.
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