研究概要 |
希土類合金であるCe【B_6】の低温秩序状態は奇妙な振舞いを示すことが、1970年代後半から広く知られていて、長い間ミステリアスな事実として興味を持たれていた。この振舞いは交換相互作用により実現した軌道反強磁性秩序状態(あるいは、軌道整列状態,四重極秩序状態)として理論的に、定性的ではあるが説明されることが、1983年大川により示された。従来からJahn-Teller効果による軌道秩序状態は数例報告されているが、交換相互作用によるものは初めてと思われ、この点からもCe【B_6】は極めて興味深い物質である。本研究は、交換相互作用により実現した軌道秩序状態をより定量的に調べることを目的にしている。 今年度は、定量的解析の第一歩である分子場近似で軌道反強磁性状態を調べた。TSS端末の整備、プログラムの開発等に時間を費やされ、まだ予備的段階であるが、数値解析の結果は先の理論を支持している。すなわち軌道秩序状態では、(1)磁場が引加されないときは何等磁気モーメントの秩序は存在しないが、磁場の引加に伴って強磁性磁気モーメントばかりでなく反強磁性磁気モーメントも現れる。(2)磁場の引加に伴って、軌道反強磁性状態への転移温度は上昇する。(3)軌道秩序状態は格子の歪みの自由度と結合しているため、磁場の引加に伴って格子の柔らかさに異方性が期待できる、等。解析の結果は、この事実を説明している。 数値解析の結果と実験事実で異なる点もある。磁場の引加に伴って現れる磁気モーメントは定性的には類似の磁場依存性を示すが、その大きさは、数値解析の結果は実験で観測されるものより10〜20%大きい。Ce【B_6】は代表的な近藤格子であり、近藤効果が大きく現れると期待されている。近藤効果は、磁気モーメントを小さくする傾向があるから、この違いは近藤効果により説明できると期待している。
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