研究概要 |
前年度までの研究で生体膜の相転移, 二次元原子集団の統計力学, 結晶表面の形状の統計力学等において, トポロジー的励起が如何に重要であるかを示し, 新しい理論解析手段である「格子フェルミオン法」を駆使して, 新しい結果を数多く導き出してきた. 今年度の研究は, トポロジー的励起が主役となる新しいテーマの開発に向けられた. その第一は「高温超伝導」すなわち「酸化物超伝導」の理論的解明である. これは従来のBCS理論とは全く異なる機構によって発生すると考え, Cu-O-Cuの二次元ネットワークに, 反強磁性的短距離秩序があって, ここに発生したホールが二個づつ強く結合して荷電ボーズ粒子の集団を形成し, このボーズ粒子集団の凝縮相が新しいタイプの超伝導状態を作り出している, という理論である. これは二次元型の超伝導状態であるので, その物性の主役はトポロジー的励起によって演じられている. 今年度の研究は, まず基礎的理論として, 荷電ボーズ粒子形成の理論を確立することに当てられた. 今年度研究実績の第二は「生体膜のモルフォルジーの理論」である. これは一般に, 二次元的膜面は安定に存在し得るか?, という理論的テーマであり, 繰り込み群の手法の格好の対象である. 本研究による結論は, 安定な膜面も, 不安定な膜面もあり得る, というもので, ペルテイ等の結論「膜面は, 大きくすれば必ず不安定である」とは異る. 不安定の要因は熱励起であり, 本研究の結論によれば, 大きな膜面には「安定から不安定」への相転移があることになる. 今年度研究の第三は, 生体膜中のタンパク質分子の動力学の理論である. 前年度までの研究におけるトポロジー的励起が熱的にたくさん作られている脂質二重膜の中をタンパク質がどのように動いて行くか, を理論的に調べた. これは計算機実験を併用して行なわれた. このイメージによって, 実験結果は説明できることがわかった.
|