研究概要 |
近年大型計算機による量子多体系の研究が盛んである. 我々はこれに対する新しい試みとして分割セルモンテカルロ法(CDM)を提唱しこれを一次元XY模型(厳密解あり)に適用することによりこの方法の有用性を示した. 本研究はDCMを用い二次元量子スピン系の物性を明らかにしたものである. 対象とした系は(1)四角格子上のXY模型(S=1/2), (2)三角格子上の反強磁性XY模型(S=1/2)である. (1)は二次元量子系でのコステルリッツ・サウレス転移の有無, (2)は量子性とフラストレーションとの係り合いの点から近年興味が持たれている系である. 得られた結果を各の場合に略述する. (1):相転移はある. これは巨視的, 微視的物理量の計算を通して確認され, 更に相転移を記述する臨界指数を求めた. この相転移は対応する古典系の様相(K・T転移)に類似しているが高温相での相関距離の温度依存性が〓の型であり, この点古典系と異る事を明白にした. (2)では計算により求められた熱力学量の温度依存性には異常がみられず, 相転移はこの系にはない. これは対応する古典系と異る. スピンの核成分の対相関をみると, この系は三つの部分格子構造を示すがその相関は距離と共に指数関数的に減衰しその相関距離はT=OKに於ても有限にとどまる事がわかった. 量子性とフラストレーションとの相乗効果がこの系での秩序状態形成をさまたげたのである. これまでの量子モンテカルロ法は系の巨視的な熱力学量の計算に重点がおかれており, 微視的物理量の計算には困難が伴なった. 本研究で用いられたCDMは巨視的量と同様, 系が含む微視的物理量に関する情報も容易に求め得る. 今後この方法を他の量子多体系に応用する計画である.
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