研究概要 |
前年度に継続して, 散逸系のカオスの発生と構造の研究を理論的・数値実験的に進めた. 発生点近くでのカオスの普遍的構造をパワースペクトルの構造という観点から捉える研究は前年度に予定を越えて進展した. 一方, カオスの特徴をパワースペクトルとは違った側面から捉えるものとして, 新しく二組の量が世界的な研究状況のもとで浮び上ってきた. ひとつは奇妙なアトラクターの特異な確率測度の多重フラクタル構造を表現するf(α)-スペクトルおよびそれとルジャンドル変換で結びつく無限個の一般化次元D_9であり, もうひとつは, アトラクター上のカオス的な軌道の局所的な拡大率に関するスペクトルh(γ)およびそれとルジャンドル変換で結びつく一般化エントロピーである. これらの量はカオスの統計物理学的理論を組み立てていく上でも基本的に重要なものである. そこで, 本年度はこれらによってカオスの発生と構造を捉える研究に重点を移した. 本年度の成果を次に列挙する. (1)双曲型の力学系におけるカオスで, f(α)とh(γ)との間に一定の関係があることを見出した. これは, ストレンジアトラクター上のそれ自身特異である定常的な確率分布とその上でのカオス的軌道の特性との間の内的関係を捉えたものとして重要である. (2)二次元写像が生成するカオスのアトラクターに対して部分次元の概念を導入し, それらの間の内在的な関係を導いた. (3)カオス的な軌道の局所的な拡大率のゆらぎに対する分配関数を定義し重み付き平均拡大率と部分次元との関係を見出した. (4)アトラクター内に稠密に存在する不安定周期軌道とその近傍のふるまいから(3)の分配関数を求める公式を導出した. (5)二次のLozi写像やHenon写像が示す典型的なカオスに対してf(α)やh(γ)を求めた.
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