研究概要 |
カオスは力学系の普遍的性質であっていろいろなところに顔を出す. ここではそれらの中からいくつかの問題をとりあげている. 本年度になされた主な仕事をのべる. 1.線形応答理論とカオス. 線形応答理論は統計力学に新しい考えを導入し有用な結果を提供して来たが, その基礎は必らずしも明確でなく, 不都合な側面もある. 例えばエントロピが増大しないこと, 感受率は孤立感受率であって断熱感受率を与えないことである. 線形応答理論は力学の立場から取扱うがその力学はカオス状態の力学である. 力学量は空間的にも時間的にもはげしくゆらいでいる. そのために法則収束の考を導入し, 線形応答理論の〓〓策を試みた. その結果, エントロピーの増大が期待され, 感受率が正しく断熱感受率を与えることが示された. また二次元の2つ又は3つの古典的双極子の一定〓場の下での力学を計算機によって解き, 法則収束による粗視化の必要性を示した. 2.量子力学系のカオス. 昨年の研究で2自由度系ではエネルギー分布がウグナー型であってもハミルトン行〓は決してランダムでないことを示したが, 道に完全にランダムではないマトリックスからもウィグナー分布が出ることを示した. マトリックスの要素は表示に依存するので, 表示によらないランダム性や局所分布性をしらべることがこれからの課題である. 3.微生物の運動のカオスについても研究の進展があったが, ここではのべない. 4.生態系のカオス. 偶数種の捕食者被捕食者間の関係は, 適当な変換によってハミルトン形成にかき直すことが出来る. 4種の生物種について, カオスの拡がりをしらべたが, これは不動点の分岐によるのではなく, 回転者の変化による不動点の増加である.
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