半導体超微粒子の示す電気・磁気・光学・化学的諸性質はバルク結晶のそれとは大きく異なることが考えられる。本研究では、半導体超微粒子の合成を行なうと共に、パルスレーザーにより励起した超微粒子からの発光の減衰時間分解スペクトルから励起状態の電子構造、表面吸着分子との間におこる電子移動の動的過程を明らかにすることをめざした。その結果以下のような研究成果を得ることが出来た。 1)Cds、ZnSのような【II】-【VI】族の半導体超微粒子(粒径:〜100【A!°】)を多孔質ガラスに担持する方法を開発した。この方法は、溶液中に懸濁した半導体コロイドと違い、凝集、沈殿の恐れはなく、熱処理が可能となった。また、極低温でのルミネッセンスや光吸収の実験、ガス分子の吸着実験が容易にできるようになった。 2)これらの超微粒子を用い、吸収・発光スペクトルを測定した。発光スペクトルはバルク結晶とかなりちがうことがわかった。たとえばCdSの場合バルク結晶で強くみられるグリーン・エミッションは、微粒子では非常に弱くしかも低温にしてもシャープにならない。寿命も短い。一方、長波長にみられるレッド・エミッションは微粒子では強い。 3)これらの微粒子の表面に種々の分子を吸着させると、発光が著しく消光される。とくに電子受容性分子によって消光されることがわかった。しかも発光寿命は変わらず、初期強度が変化する。この消光は光触媒効果と関連すると共に、半導体の伝導電子と吸着分子のあいだの電子移動に起因することを示唆し、発光の動的特性を説明するモデルを提唱した。 また、これらの発光の温度変化を低温まで詳細に測定することにより、負の活性化エネルギーをもつ電子移動過程の存在の可能性など、電子移動にたいする新しい知見を得ることが出来た。
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