研究概要 |
近年、人工衛星情報の急速な進歩にともない、極域厳冬期に於てさえ、広大な海氷野内に大小さまざまな開水面が存在しつづけていることが明らかになってきた。この厳冬期に於ける開水面の継続的な存在は、そこで大きな大気-海洋間熱交換を介して、海氷が急速かつ多量に生産されては強風によって、そこから運び出される過程が常に水面を維持しながら繰返されていることを意味している。この急速海氷生産は、結果として海洋へ多量のブライン(高塩分水)排出をともない、極域海洋構造に重大な影きょうを与える。本研究では、北大低温科学研究所大低温実験室(25m×10m)内に於て、「極域厳冬期」を再現させ、室温(-10℃〜-30℃)と風速(2m/s〜10m/s)を変化させることによって、急速海氷生産過程を量的に調べた。用いた水槽はアクリル板製で、大きさは幅0.4m,長さ2m,深さ0.6mであった。この中に塩分32%の塩水を満たし、水面上の一方から常時風を吹かせた。また水槽内で生じている対流現象はシュリーレン法を用いて可視化し観測した。 実験結果は以下のとうりである。氷生産速度(g/【cm^2】・sec)は、気温が低い程、風速が大きい程増大したが、風速依存度の方がずっと大きかった。また氷生産速度は、時間とともに開水面の面積が減少していくにもかかわらず、増大していき、ある時間が経過するとほゞ一定になった。このことは、氷生産が従来から予想されていた表面だけで起っているのではなく、水中でも多量の氷晶が生産されていることを示唆した。激しい水面冷却は、最初は海水内部に大きな過冷却状態を作り、その一たん内部にたくわえた大きな過冷却状態を保ちつつ、その後に海水内部で急速かつ多量の氷生産がもたらされた。この過冷却状態を維持しながらの海水内部での氷晶生産が、厳冬期開水面での急速海氷生産過程に大きく寄与していることが本研究で初めて明らかになった。
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