研究概要 |
前年度作成した日本海の海上起床資料から, まず緯度経度2度の海域ごとの海面熱フラックスを求めた. 海面熱フラックスは短波放射, 長波放射, 顕熱, 潜熱からなり, 算出にあたってはバルク法を採用した. 一方, これも前年度作成した海洋各層観測資料から, 上層400メートルの海洋の貯熱量を求めた. この両者から対馬暖流系が日本海に輸送する熱量を求めた. さらに, この見積とは独立に, 対馬海峡, 津軽海峡, 宗谷海峡における水温分布と対馬暖流系の流量の評価からも対馬暖流系が日本海に輸送する熱量を求めた. 各季節ごとに双方の値を比較した時, 春・夏・秋季に関しては良い一致がみられたが, 前者の熱収支法から求めた値は負の値, すなわち, 海洋から熱が発散するという結果となった. この理由のひとつは海面熱フラックスの評価が小さすぎることにあり, 現在提案されているバルク係数の見直しを含む根本的な検討を要することがわかった. さらに上述した海洋各層観測資料のうち気象庁の観測定線PM線資料を抽出して, 水塊分析を行った. その結果として, 日本海中層水には塩分極小で定義されるものと酸素極大で定義されるふたつの水塊が存在することがわかった. ふたつの水塊の出現様式, 水の性質(水温・塩分・酸素)の季節及び経年変動の状態の観察から次のことがわかった. すなわち, 塩分極小水塊は極前線の北部で冬季の対流混合で形成され, 対馬暖流下部に侵入することがわかった. さらに, 1975年から数年間はより不活発な大気海洋相互作用により形成されなかったと推察された. 一方, 酸素極大量は極前線より南の対馬暖流域で同じく冬季の対流混合で形成されることがわかった. この水塊は形成される海域で大きく水の特性が異なることもわかった.
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