研究概要 |
パーソナルコンピューター(PC980/VM2)で制御・データ処理を行う再生型CW法核四極共鳴(NQR)分光器を製作した。この装置では、NQRデータの取り込み,周波数掃引,温度測定などはAD・DA変換器(AD412,DA412)を通して行い、周波数データはカウンター(TR5822)よりGPIBを通して直接コンピューターに取り込まれる。この分光器は自動運転可能である。第2のパーソナルコンピューターはパルス法NQR装置に組み入れ、FTを含むデータ解析に使用した。ソフトは全て自作した。パルス法,CW法により主としてNQR線幅を測定した。 結晶構造解析の結果パラクロルベンジルアルコールの室温相(【I】)は単斜晶系空間群【P2_1】に属する極性結晶と判明した。結晶構造は【2_1】軸に沿って形成されるOH基の一次元水素結合によって特徴づけられる。熱分析によれば、【I】→低温相(【II】)転移温度【T_((I)(II))】は転移経験回数Nや【II】→【I】転移後の到達温度などに応じて規則的に変化し、【II】→【I】転移後の【I】をアニールとすると【T_((I)(II))】は初期値にもどる。このように【T_((I)(II))】は結晶の履歴をかなり正確に反映する。一方NQR線幅δνもNに規則的に依存し、アニールによって減少する。しかし【T_2】はNによらずほぼ一定であるから、δνは主として転移に伴って生じる格子欠陥にもとづく結晶の非理想性を表している。このことから、結晶の履歴に応じて格子欠陥が蓄積され、これが【T_((I)(II))】の履歴依存性にみられる一種の記憶現象を支配していると結論できた。δνの等温時間変化から求めた格子欠陥の緩和時間は結晶の融点より10〜20℃低い温度で数〜数十時間であり、結晶の履歴に依存する。【II】→【I】転移直後の【I】相のδνは臨界温度(約260K)以上で急に減少する。これに対応する熱分析データも得られた。これは格子欠陥の緩和にも一種の転移点のあることを示唆しており、きわめて興味深い。
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