研究概要 |
本研究の主目的は、常圧下の温度変化により特異的な相転移現象を示し、かつ低温相が強弾性を示す分子性結晶について、格子振動と相転移との関係をより詳しく調べるために、高圧下においてラマンスペクトルの温度依存性を測定することであった。研究計画ではまず、(1)ダイアモンドアンビルセル用クライオスタットの製作,(2)ラマン散乱測定用光学系の改造、の2つの作業を行なうこととした。 (1)の作業において、光学系からの要請を満足する真空槽の製作が、実際には易しくないことがわかり、クライオスタットの製作を2段階で行なうことにした。すなわち第一段として、簡易型の断熱槽をもつものを製作し、予備的実験を行ない、この間に最終的な要求に見合うものの設計を行なうことにした。(2)ではほぼ計画どうりの作業を行なったが、アルゴンイオンレーザーから出る自然放出線を除くことが詳細なスペクトルの測定に必要になったので、フィルターモノクロメータを用いることにした。 上記の簡易型のクライオスタットを用い、フェノチアジン結晶のラマンスペクトルを高圧下で測定したところ、58℃では3kbar付近で低波数の格子振動バンドが特異的な波数の圧力依存性を示し、それはすでに常圧下、250K近傍で見い出されている温度依存性に良く似ていることがわかった。現在、測定圧力と温度の範囲を広げて実験を継続中であるが、高圧相は常圧低温相と同一の相であり、従って強弾性を示す単斜晶系の相であると考えている。今後詳細な測定により、格子振動モードの特徴などについて、さらに詳しい知見を得ることができるものと期待している。また現在、これまでの実験の経験をもとに、第2段階のクライオスタットの構造を考慮中である。
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