研究概要 |
本研究代表者によるリエントラント液晶の研究は1983年に開始されており、これまでに二種の単成分リエントラント液晶を合成した。それらはOBBC:4-(4"-オクチルベンゾイルオキシ)-ベンジリデン-4'-シアノアニリン,および、CBOBP:4-シアノベンゾイルオキシ-(4'-オクチルベンゾイルオキシ)-パラフェニレンと呼ばれる。本年度は、これらを用いてパルス法NMRの実験を行い、陽子スピン-格子緩和時間を実験室系(【T_1】)および双極子系(【T_1】D)において測定した。二種の緩和時間(【T_1】と【T_(1D)】)は各相における分子運動のスペクトルを、三桁程異った時時間スケールにおいて与える。ここでは、OBBCに関する結果を述べる。この液晶物質は高温からI(等方液体)-N(ネマティック相)-SAd(スメクティックAd相)-RN(リエントラントネマティック相)-結晶というサーモトロピックな変化をする。【T_1】過程についてみると、ふたつのネマティック相のうち高温のN相では緩和は殆ど配向ベクトルのゆらぎで規定されるが、RN相ではその振幅が抑えられ、そのかわり、分子の並進的自己拡散が緩和を支配している。SAd相はちょうどその入れかわりの相にあたっており、【T_1】に対する配向ゆらぎのカットオフ効果があらわれている。しかしより遅い運動のスペクトルを反映する【T_(1D)】を通して見ると、配向ベクトルのゆらぎはどの相でも観測されており、とくに、このモードによる【T(-1D)^(-1)】がSAd相において顕著な減少を示さないということは、この相における並進的長距離秩序がいかに危ういものであるかを示唆している。このように本研究はリエントラント液晶における各相の分子運動の様相を明らかにすると共に、特に、秩序状態であるSAd相における長距離秩序が、古典的な層状構造とはかなり異ったものであることを裏付けた。
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