有機金属錯体の励起状態の性質に関する研究は数多く報告されているが、我々の研究の特色は、励起三重項状態におけるスピン副準位の性質(ゼロ磁場分裂定数、全減衰速度定数、輻射遷移速度定数の相対値など)の観測と低温(液体ヘリウム温度)結晶中のシャープなりん光及びりん光励起スペクトルの観測である。我々は本研究において、初めて有機金属錯体の三重項スピン副準位の性質を明らかにした。光検出磁気共鳴(ODMR)法は方法論としては既に確立しているが有機金属錯体に応用したこのはこれが最初である。 1.Rh【(ppy)(^3+_3)】及び【Rh(pher)(^3+_3)】スピン副準位の性質から、中心金属Rhの重要性が明らかにされ、【T_1】状態は励起が配位子に局在した【3ππ^※】であるが、その性質は中心金属から配位子への分子内電荷移動状態【3π^※】のエネルギー位置によって大きく左右されることが見い出された。 2.ゼロ磁場分裂定数(zfs)が10〜100【cm^(-1)】はあると考えられていたこれらの有機金属錯体において、zfsは0.1【cm^(-1)】のオーダーであることを初めて観測した。それらは、【T_1】が【3ππ^※】のRh錯体にとどまらず、【T_1】が【3απ^※】であるRu錯体にも及び、今までの常識を覆えした。この解釈については現在も研究を続行中である。 3.Ru【(bpy)_3】【(Cl0_4)_2】単結晶のシャープなりん光及びりん光励起スペクトルを用いて、特に低位の励起状態に関して詳しい研究を行なった。その結果、りん光寿命の温度変化から予想される三つのの状態(△【E_1】〜9【cm^(-1)】、△【E_2】〜50【cm^(-1)】)が真に存在するこもが分光学的に初めて明らかにされた。またこれらの状態のりん光強度及びりん光スペクトルには大きな違いがあること、これらの状態は完全に熱平衡にあることなどが明らかになった。
|