研究概要 |
前年に、5-ジシアノメチレンビシクロ〔2.2.1〕ヘプト-2-エンとそのベンゼン縮環体の新しい光反応を見いだし、引き続き分子内に含まれる1.4-ジエン部の立体構造の異るク-ジシアノメチレンビシクロ〔2.2.1〕ヘプト-2-エン系化合物に研究を拡大した。従来の結果は、光反応生成物の構造と反応経路の選択性に特異性はあるものの基本的には1,2-炭素移動反応(ジパイメタン転位)が進行する点で1,4-ジエン系の光反応としての普遍性を有するものと理解されていた。本年度研究対象とした化合物は、二重結合が直交する形に固定されている点に特徴があり、従来の1,2-炭素移動反応とは異質な光化学的挙動を誘起することを初めて明らかにすることができた点を強調したい。この現象は、二重結合間の電子的相互作用に軌道称性による禁制の概念を導入1分子内電荷移動相互作用により支配される光反応として説明することができ、光反応を制御するという意味で重要な知見を与えてくれる。実際に観測された光反応は、ベンゼン縮環体では芳香環を切る形でのエタノ架橋部の1,3-炭素移動に続く脱エチレン反応とそれに競争するエタノ架橋部のジシアノメチレン部分への1,3-炭素移動反応である。また、7-ジシアノメチレンビシクロ〔2.2.1〕ヘプテン自身も同様に1,3-炭素移動生成物3-ジシアノメチレンビシクロ〔3.2.0〕ヘプト-2-エンを与え、アルコール存在下ではアルコキシ基の付加したノルボルナン骨格への転位も併せて進行する。さらにこの研究に付随して液体窒素温度での光照射ではジシアノ置換イソベンゾフルベンを直接に観測するのに成功した。また、α-位にシアノ基を有するスチレン誘導体で高効率の三員環形成の光反応が進行するなど興味深い事実を見いだすことができた。
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