研究概要 |
微量【H_2】【O_2】のために高い感度と選択性を有する定量法を確立することは、酵素反応との組み合せによって微量生体成分分析に応用され得るので、その重要性は高い。この目的の呈色試薬として、筆者はTi(【IV】)と一連のヒドロオキソアゾ化合物(Y)(例:4-(2ピリジルアゾ)レソルシノール:PAR)との混液(Ti-Y試薬)を見出した。中でもTi-PAR試薬は微量生体成分定量への応用において好結果を得た。本研究では、呈色化学種の構造を明らかにし、さらにその知見に基づいてYを選び、感度、選択性ともさらに高い微量過酸化水素の呈色試薬の開発を試みた。 1.【H_2】【O_2】-Ti(【IV】)-PAR溶液系:YとしてPARを取り上げ、錯体Ti(【IV】)-PAR-【H_2】【O_2】の構造を以下の様に推定した。(1)吸光度(508nm)測定(Job,モル比法)により錯体の組成が1:1:1であることを明らかにした。さらにEDTAとの配位子交換反応を利用して錯生成定数【K_F】=2.0×【10^(20)】を得た。(2)錯体のEIマススペクトルを測定し、PARが【H_2】【O_2】によって酸化されることなく配位していることを確めた。(3)PARの結合部位を知るために【^1H】NMRスペクトルを測定した。その結果、PARはジアゾ基およびピリジン環のN、レソルシノール環θ位のOH基によって配位結合して2ケの5員環を形成し、【H_2】【O_2】はTi(【IV】)とピリジン環Nに結合し、計3ケの5員環を含む安定なTi(【IV】)-PAR-【H_2】【O_2】錯体が形成されていると推定された。以上、本呈色反応はTi(【IV】)-PAR-【H_2】【O_2】錯体中のPARのキノイド構造に依るものであり、【H_2】【O_2】は配位子として錯体の安定化に寄与していると考えられる。 2.Ti-Y試薬のデザイン:1で得られた知見に基づいて、安定な錯体を形成するPARの骨格を持ち、感度増大と深色効果を得るために電子吸引性基と長い側鎖を導入したBr-PAPSに着目し、Ti-Br・PAPS試薬を得た。
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