研究概要 |
我々は、種々の二核化配位子を用いてコバルト,鉄,マンガン錯体を合成し、それらの酸素との反応性について調べることを目的とした。 1.コバルト錯体、二核化配位子2,6-ビス〔ビス(2-ピリジルメチル)アミノメチル〕-4-メチルフェノラト(L-1)錯体では、u-phenolato -u-carboxylate-u-peroxo架橋をもつ酸素錯体が得られた。この酸素錯体は、溶液、および固体の両状態で可逆的に酸素を脱着し、きわめて安定であることがわかった。これは、二核化配位子(架橋フェノラト)、および、架橋カルボキシラトが立体的電子的に酸素錯体を安定化しているものと考えられる。一方、配位子2.6-ビス〔ビス(2-ピリジルメチル)アミノメチル〕ベンゼン(L-2)では、u-ヒドロキソ、u-カルボキシラト、u-ペルオキソ架橋をもつと思われる錯体が得られた。しかし、これは可逆的に酸素を脱着せずヒドロキソ架橋とフェノラト架橋では反応性に大きな違いがみられることがわかった。 2.鉄錯体.二核Fe(11,11)錯体【[Fe-2(L-1)(RCOO)_2)]^+】は、酸素と反応するが、二つの鉄イオンのうちの一個のみが反応し、きわめてめずらしい二核高スピンFe(11,111)混合原子価錯体を生成した。これらは、二核高スピン混合原子価錯体として単離された初めての錯体であり、生体系に存在するセミメトヘムエリトリンや、ピンクウテロフェリンのモデル化合物として興味深い。配位子(L-2)では、メトヘムエリトリンのモデル化合物と考えられるu-oxo-bis-u-(carboxylato)コアを持つ錯体を単離し、それらの磁気的、分光学的性質を調べた。 3.マンガン錯体,鉄錯体と同様の組成をもつ二核(11,11)錯体が得られたが酸素とは反応しなかった。しかし、マンガン三価イオンからは、鉄錯体と同様二核Mr(11,111)混合原子価錯体が得られ、これは、光合成系【II】酸素発生系の休止状態のモデル化合物として興味深い。また、この種の錯体として初めて結晶構造解析がなされた。
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