研究概要 |
これまでの我々の研究によりキイロショウジョウバエのG6PD遺伝子の発現を調節する最も強力な遺伝的要因はG6PD領域に挿入したり離脱したりする可動因子である可能性が強く示唆された。このことを確認するために、恒常的にG6PDを過剰生産する突然変異系統2512HのゲノムDNAライブラリーを入ファージEMBLを用いて作り、構造遺伝子の一部をプローブとして1つのクローンを分離した。その構造を制限酵素地図を作って調べたところ、5側に2.4kb,イントロン中に4.2kbの挿入配列があることが分り、更に、それらのシークエンスを行ったところ、5側の挿入配列は欠失型のP因子が二つタンデムに重複したものであることを、また、イントロン中のものは末端にTの多い特殊な構造をしており、今までに知られていない動く因子であることが分った。しかしながら、5側の挿入配列の長さはゲノムDNAのサザンブロットより推定される3.6kbより1.2kb短いものであった。これはファージの増殖中に容易に離脱するような構造をもつと思われる。そこで完全長の挿入配列をクローニングするためにCharon34を用いて再びライブラリーを作製し、これより5つのクローンを単離したところその中1つがゲノム中の長さと同じ長さの挿入配列をもつものであることが分った。しかし、このクローンでも絶えず欠失が起り、プラスミドに入れてもそのことは変らず、従ってそのシークエンスを行うのは極めて困難であることが分った。現在その対策を検討中である。しかし今回の実験で我々の従来の假説が正しいこと、また可動因子の挿入が調節領域に起ることにより下流のG6PDの発現が正に調節されていることだけは確認され、ショウジョウバエでは今迄報告されていない新しいタイプの突然変異であることが分った。このような突然変異は可動因子の生物学的意義を論ずる上で極めて重要なものと思われる。」
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