研究計画では、クリスタリン遺伝子の水晶体細胞における組織特異的発現に必要なDNA調節領域に特異的に結合する因子の同定を目的としていた。 1.DNAがタンパク質と結合して複合体を形成すると、アクリルアミドゲル上で移動度がDNA断片の泳動よりも遅くなることを利用したゲル移動度シフト法で調べたところ、ニワトリ水晶体細胞の核抽出物ではDNA-タンパク質複合体が検出されたが、脳やHeLa細胞の核抽出物では検出されなかった。従って、水晶体細胞の核の中には、クリスタリン遺伝子のDNA調節領域に特異的に結合する因子が存在することが言える。 2.次にこの因子を同定するために、ニワトリ水晶体細胞の核抽出物を電気泳動して分離した後、ニトロセルロース膜に固定し、同位元素で標識されたクリスタリン遺伝子のDNA調節領域にをプローブとして、調節領域に特異的に結合する因子の同定を行った。その結果、105kdと61kdタンパク質が検出された。105kdのタンパク質はほかの組織でも検出され、調節領域以外のDNAとも結合するので、61kdタンパク質が調節領域に特異的に結合する因子として同定された。 3.ニワトリ水晶体細胞の核抽出物をクリスタリン遺伝子とともに、細胞に導入して、遺伝子の発現が高められるかどうかを検討する予定であったが、水晶体細胞の核抽出物を多量に調製することが出来ず、断念して、次の方法でこの因子のクローニングに着手した。発現ヘクターλgt11でcDNAライブラリーを作製して、調節領域DNAのプローブと結合する融合タンパク質を産出するプラークを拾う方法である。この方法で得られたクローンは、水晶体細胞でのみ特異的に発現され、転写産物の長さは2kbであり、61kdタンパク質をコードするに充分の長さである。今後、このクローンの機能を検討していく予定である。
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