トンボの縄ばり制と闘争行動については、カワトンボ類(カワトンボ科)とコナカハグロトンボ(ミナミカワトンボ科)について観察した。ニシカワトンボの闘争行動は、5パターンに分けることができた。これ等の闘争行動は、種によって多少違いが認められるものの、オオカワトンボにも適用することができた。コナカハグロトンボでも闘争行動のパターンは同様であったが、闘争中に体を左右に振るのがその特徴であった。これ等の行動観察から闘争行動は系統進化と深く関係していることが示唆された。 闘争行動の分析から、ニシカワトンボの橙色翅雄と透明翅雄の雌の獲得戦略は、前者が縄ばり維持で後者がスニーカー戦術であり、同じ戦略がオオカワトンボの橙色翅雄と薄茶翅雄によって採用されていることが明らかになった。コナカハグロトンボの雌の獲得は縄ばりによるが、産卵場所の雄の個体数が多い時は、縄ばりを占有せず集団待期をすることがわかった。 電気泳動は、ニシワカトンボとオオカワトンボでアイソザイムを検出した。ニシカワトンボとオオカワトンボでは、泳動先端に近い3本のバンド(E_1、E_2、E_3と記す)に顕著な差が認められるので、これ等を指標として識別することにした。ニシカワトンボでは、E_1ーE_3バンドの出現率は74.3%、57.9%、5.0%であり、一方、オオカワトンボではそれぞれ3.8%、80.8%、63.5%であった。この結果から、バンドE_1ーE_2とE_2ーE_3の組み合わせで両者の違いを明らかにできることが示唆された。 ショウジョウトンボの染色体数は、九州本土の各地と南西諸島で採集して調べた。その結果、染色体数は奄美大島より南側の標本では、2♂n=25.n=13で、屋久島より北側の標本では2n♂=24、n=12であることが分かった。これから、日本には少なくとも2亜種のショウジョウトンボが生息していると考えられる。
|