研究概要 |
植物固体群の成長を解析した今までの研究は、主に収量,平均個体重などを指標として個体群の成長を記述してきた。しかし、これらの指標は個体群構成個体の総和であり、決して個体成長に具体的記述を与えるものではない。個体群の成長に対する理解をさらに深めるためには、個体の成長および個体成長が個体群の成長へと統合されていく過程についても、十分な認識を得る必要がある。本研究は研究代表者が開発した手法を用いて、平均個体重の成長と個体重の成長を統一的に定式化し、かつ個体の成長にともなう個体重の順位変動を定量化することを通じて、個体群内の個体成長の実態にせまる。 研究当初はオオオナモミ栽培密度の水準を5段階、各密度水準の繰返しを12回、必要植物苗数3000におよぶ規模の実験を予定していた。しかし、苗床で育苗中に野犬の害に会い予定苗数を確保できず、実験の規模を縮小した。本年度の実験は密度水準1段階、繰り返し30回とし、次年度以降の実験に必要な種子数を確保するとともに予備実験とした。5〜10月の栽培期間を通じて3日ごとに全栽培個体の地際直径,草丈および枯死葉重を測定した。10月末には全個体を収獲し、茎重,葉重,種子数および重量を測定した。これらのデータは現在解析中であるが、今までに得た知見は次の通りである。 同一栽培密度水準で多数回繰り返して植物を栽培したので、個体の順位変動の推移確率行列の一般的性質を検討するのに必要なデータを十分に得た。これにより、ある時点tiである順位Niを持つ個体が次の時点tjで他の順位Njに移る確率は、a)成長の初期には大きいが、成長の後期には小さくなり、成長速度と密接な関連があり、b)大きな個体および小さな個体ほど低く、平均的サイズの個体ほど大きくなった。この知見のうち、b)の結果は、個体群内の個体の命運を把握する上で特に重要と思われた。
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