筆者は光化学系I反応中心が色素的に著しく濃縮された粒子(P700濃縮粒子)を用いてその構造解析を行なっている。今年度は光化学系I初期電荷分離に関与する分子に対して最近提起された幾つかの疑問点について検討した。 1 筆者の糸1分画は約8分子のantenna chl-aに対しP700が1分子存在しており、低温(77K)での吸収スペクトルではP700の吸収が肩として認められる。そこで、この肩からP700及び【P700^+】の絶対吸収スペクトルをcurveanalysisにより得ることを試みた。その結果、【P700^゜】の還元型はchl-aのdimerからなること、また、その酸化型のpositive chargeはこの3つのchl-aのうち1方に偏って存在していることが示唆された。2 エーテル処理後得られるP700濃縮粒子はvit.【K_1】を全く含まないので、もしvit.【K_1】か【A_1】であるとするとP700からの電子は【A_1】より先には行かないはずである。そこでこの可能性を調べた結果(1)flashによる励起後、光酸化されたP700は速やかに(【T_(1/2)】=40nsec)再還元される。同時にP【700^T】の生成が認められた。(2)vit.【K_1】再添加によりこの速い再還元はみられなくなる。(3)【A_1】によると考えられているEPR signalはvit.【K_1】抽出と共にみられなくなる。(4)しかし、励起光として連続光を用いると電子は【A_1】より先に伝達される、等が明らかとなった。以上からvit.【K_1】は【A_1】であると考えられるが、【A_1】部位のbypass electron flow(rateは【A_1】がある時の約1/100)があるものと推定された。3 系Iの初期電子受容体【A_(o0)】670nm付近に吸収を持つchl-aのmonomerであると考えられてきた。vit.【K_1】(【A_1】)のない系I分画で見られるfast decay(上記 2-(1))は【A_0】よりP【700^+】への電子の逆行によるものと考えられるので、その波長特性を調べたところ【A_0】は690nm付近に吸収を持つchl-aであることを示す結果を得た。従って、chl-a-670は真の【A_0】ではない可能性が示唆された。
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