材料としてオオバナノエンレイソウの花粉母細胞を使用し、まず正常な減数分裂における中期染色体の形態について個々の細胞間の差を調べてところ各染色体の長さはほぼ一定の値をとることがわかった。中期染色体は、分裂前期における染色体変換-凝縮の結果形成されるが、自然条件下では多様性に乏しいと言える。しかし、花粉母細胞を減数分裂開始直後培養条件下に移すと、中期染色体の長さは、自然に比し約20%強く凝縮して、全体に短かい形態をとるようになる。その場合凝縮率はどの染色体も等しく、細胞内の凝縮機構によって制御されていることが示唆される。したがって自然条件における花粉母細胞の第I染色体の長さ及び横巾をそれぞれ100として凝縮度を示す尺度とすることにした。 エンレイソウ花粉母細胞は前減数分裂期のG1期、S期、及びG2期の前半に葯から取り出して培養すると体細胞分裂型の分裂に戻る。この場合の中期染色体の形態を減数分裂のそれと比較すると、はるかに弱い凝縮度を示すことがわかった。その凝縮度は、培養開始の時期に依存し、より早い時期ほど弱く、前減数分裂期が進行するにしたがって強くなり、凝縮指数は、170〜130の間にあった。この場合も各染色体間で凝縮度の差はない。G1期培養の花粉母細胞染色体の形態は、胞原細胞の体細胞分裂のそれに類似していた。 S期の花粉母細胞を含む植物体を30℃で高温処理すると、処理期間に応じて種々な分裂の様相を示す。4日間処理では体細胞分裂に転換し、その中期染色体は異常に凝縮した形態(凝縮度25〜30)を示す。横巾に対する長さの比が小さくなり、最短の第5染色体では、その比が1.3であった。これらの結果を合せ、エンレイソウ花粉母細胞の分裂時における中期染色体の形態は、相対値で25から170までの範囲の多様性を示すことがわかった。
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