研究概要 |
昭和61年10月10-18日 西表島, 石垣島, 沖縄島の現地調査を行い, 資料標本760点を採集し, その同定と分類学的比較研究を行った. 植物地理学的解析には, その基礎となる資料を標本として保存すると共に, 近隣地域の資料と比較検討を行って, その正しい同定と, 分類群の再確認が必要である. 小山はキク科植物の一部の分類学的再検討を行ない, 末研究の資料の多いタイ国産キク科植物について新しい知見を得て, その一部を「タイ国産キク科植物の分類学的研究7」, として発表した. また亜熱帯に多いクスノキ科の中で, クロモジ属の分類学的細胞検討を行ない, 「クロモジ群の分類と分布」を発表しかた. 村田は現地調査で得た資料を検討し, 永い間疑問視されていたニッケイは中国産のものとは異なり, 沖縄でオキナワニッケイCinnamoncum Okinawaense Hatusとされていたものがニッケイそのものであり, 学名はC.sieloldii Maesnを用いるのが正しいことをつきとめた. 日本の屋久島以北の植物相は, 日葉区系として日本, 中国中南部, ヒマラヤに関連が深いとされながら, 琉球は東南アジア区系として認識されてきた. 或る地域に産する全種類を, 固有種と近隣地域に共通に分布するものとに分けて統系的にあつかい, 共通に分布する種数の多さに比例して, その比率が高いほど互いの地域のフローラは関係が強いと考えられてきた. 東南アジア各地の標本をしらべ, ほとんど明らかにされていなかったこの地域の植物相がだんだんわかってくると, 東南アジア区系といわれている地域には, この地域だけに産する固有種が極めて少ないことがわかった. 琉球産の植物の中で熱帯域に広く分布する種に注目し, そのリストを作った. すると約2000種産する植物の中で, 約400種が熱帯域広分布種で占められ, これらの種は海が分布する障碑とならず, 温度のゆるす限り亜熱帯域まで分布していることがわかった.
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