研究概要 |
本研究によって得られた主要な成果は以下の通りである. 1.ニワトリ成体型ペプシノゲン(ACPg)に対する抗体と反応する抗原物質が全脊椎動物の胃腺上皮細胞中に見出された. またニワトリ胚型ペプシノゲン(ECPg)に免疫学的に関連した抗原が魚類成体胃および原策動物(ホヤ)胃の上皮細胞中で発現していることが明らかになり, 脊椎動物ペプシノゲンの系統発生と分子進化について興味ある知見が得られた. 2.鳥類および両生類ではECPg様抗原物質は胚期にみの出現するが, 哺乳類(マウス)では終生ECPg様抗原は発現しない. 上の1.の結果と考え合わせると, ECPgの個体発生上の発現制御は系統発生と密接な関係があると考えられる. ECPgのmRNAに対するcDNAをクローニングし, その塩基配列から得られるアミノ酸配列を既知のペプシノゲンのそれと比較したところ, 哺乳類の幼若動物胃に存在するプロキモシンと相同性が高かった. このことを, 上に述べた考えを裏付けていると思われる. 3.ニワトリ胚胃におけるECPg発現制御機構を調べるために, 実験発生学的研究, ならびに上述のcDNAを用いた分子生物学的研究を行なった. その結果, ECPgの発現には間充織の誘導作用と上皮の反応性がともに重要であり, また間充織の誘導作用はECPg遺伝子の転写またはそれ以前のレセプター, 細胞内情報伝達機構, トランス作用物質, プロモーター領域などのレベルで制御されていることが示された. 以上の結果に基き, ECPgの発現は上皮中に存在するECPg発現のためのポテンシャルと, 間充織の推進的および抑制的作用を想定した仮説がたてられた. 今後はホヤなどのECPg様遺伝子のクローニングによる脊椎動物ペプシノゲンの起原の解明と, 間充織に存在する誘導物質の発生生物学的および分子生物学的研究にむかいたいと考えている.
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