本研究の本年度の主たる研究予定は、これまで本申請人が得た1万例のニホンジカ形態計測値のコンピューターによる分析の着手、および例数が少ない九州および沖縄産材料の収集にある。来年度に追加した材料も含めて、標題の研究を完成させる。 従来の資料の分析については、資料の整理.コンピューターへの入力などを矛定通り進行させている。その結果、南方亜種がネオテニー的であり、北方亜種がハイパーモルフォシース的であること、およびヤクシカが山岳適応を示した特殊型であることなどが明確となりつつある。これは、我が国が5〜6種のシカ類の生息環境を持つにもかかわらず、ニホンジカ1種しか分布していないためと孝察される。すなわち南方亜種はネオテニー化によって祖先がえりを示し、シカ類の進化史を逆にたどったとも言える現象を示す。一方アカシカのいない北方地域の亜種は、未来型(すなわちアカシカ)化したと考えることが出来る。すなわち、日本列島産ニホンジカは、ケルブス(Cervus)属シカ類の進化史をたどることが出来る、興味深いグループと言うことが出来る。これらについては来年度に結論を出すが、予報的なものの報告をおこなった。 材料収集や計測についても予定通り作業が進行している。九州産材料については、本年度の猟期や有害駆除(主として12〜2月)が終了し、それらの頭骨が剥製店において乾燥作業に入る2月末から実施中である。沖縄産亜種のケラマジカについては、発情期(10月〜11月)に崖下に墜落死したものの白骨収集を行う。ただし冬期間は同海域の北風が強く、ケラマジカの生息する無人島(屋嘉比島)には、3月中旬までは珊瑚礁に船を着けられぬことが多い。したがって3月20日から収集に向うべく現在(3月19日)出発準備を終えたところである。
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