研究概要 |
前年度迄に離島を除く四大島のほぼ全域での調査を終え, 日本列島における本属の生息分布状況をほぼ明らかにしえた. 本年度は, 未調査だった九州地方の南西部及び甑島列島と五島列島, 中国地方の山口・島根・鳥取県下及び隠岐諸島を調査した. その結果次の諸点を明らかにすることができた. 1.九州地方における本属の生息分布状況は, 極めて複雑だが, 以下のように要約できる:aの東北部には, 「ニシカワトンボ南海郡」が分布し, その南西限は大分県の中央構造線付近と福岡・佐賀両県の県境を結ぶ線付近にある;b大分県から熊本県を東北から南西に走る中央構造線の北側の地域には「オオカワトンボ九州郡」が生息するが, しばしば同一渓流に「ニシカワトンボ南海郡」または「ニシカワトンボ西海郡」が共存する状況が見られる;c東北部を除く地域には「ニシカワトンボ西海郡」が生息する;d五島列島と甑島列島には, 「ニシカワトンボ西海郡」が生息するが, いずれも亜種化が進行し, 近い将来に新亜種として命名記載する予定である. 甑島列島産の「ニシカワトンボ西海郡」には, 有色翅雄が全く出現しない. このような個体郡は, 本州中部地域に生息する「ヒウラカワトンボ」(新種として命名記載準備中)個体郡でのみ知られており, 生物地理学上も本属の種分化過程を推測する上でも極めて重要な発見と思われる. 2.中国地方における本属の生息分布状況はまだ不明な点も多いが, 次の点が明らかになった:a.隠岐諸島には, 島後にのみ「オオカワトンボ」個体郡のみが生息する. 島根県本土には「ニシカワトンボ南海郡」も生息する. これらの事実は, 本属のこの地域への侵入過程と経過を推測する上で重要である;b.ほぼ鳥取県の千代川と岡山県の吉井川を南北に結ぶ線を境にして, 「ヒウラカワトンボ」と「ニシカワトンボ南海郡」, 「オオカワトンボ」の「中部郡」と「中国郡」の分布境界線が存在することを突き止めた.
|