出生直後にエストロジエン(合成エストロジエンDESを含む)又はアンドロジエンを投与されたマウスでは膣や子宮の上皮が持続的に増埴し、アデノーシス(ADL)や多層化等の異常を示すようになる。しかし出生前にエストロジエンを投与されたマウスでは出生直後の処理と違って子宮上皮の多層化や角化はほとんど起らないと言われて来た。今回の実験で用量を種々変えて調べた結果200-2000μgDES/dayを妊娠15日から19日まで母親に投与すると齢30日の仔マウスに膣のADLや子宮の多層化が高率に起ることが分った。更に、出生前にDESにさらされたマウスの生後のADLの発症には出生後の卵巣性エストロジエンの影響が必要なことが明らかとなった。出生前にDESで処理されたマウスでは他に子宮腺の発達低下や子宮筋層の乱構造や崩壊の起ることが分った。 出生直後にDES処理を受けたマウスの卵巣には一ケの濾胞に二ケ以上の卵を包含する多卵濾胞が高率に出現することが見出された。DES処理のみならず黄体ホルモンや雄性ホルモンの新生仔処理でも多卵濾胞が高率に発生した。また出生前のDES処理でも生後の卵巣に多卵濾胞が高率に発生した。 Tamoxifen(Tx)は非ステロイド性の抗エストロジエン物質であるが、Txを出生直後に与えるとマウスの卵巣では濾胞卵が崩壊消失し、排卵も黄体形成も起らなくなる。この卵巣は生殖腺刺激ホルモン(hCG)に対して無反応で排卵せず黄体形成も見られない。更に興味あることには、出生直後Txで処理されたマウスの恥骨の軟骨が石灰化せず成熟後も持続する軟骨化が見られるようになる。これらのマウスの恥骨連合は著しく伸長して盲腸や膀胱が高率に恥骨連合と膣の腹面との間隙を通過して恥骨下へ脱出(ヘルニア)するようになった。このようなヘルニアは他に抗エストロジエン物質では起きず、Txの特異作用と考えられる。
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