研究概要 |
山脈の基盤知覚を形成する造構造運動と地表隆起をもたらす造地形運動は区別されなければならない. ヒマラヤの基盤形成は古いが, その山脈上昇は新第三紀に始まる. その隆起運動はヒマラヤにみられる大規模なintrcontinetal thrust, とくに主中央衝上断層帯(MCTZ)の活動と密接に関連している. ヒマラヤの山脈上昇プロセスおよびそれとMCTZの関係を検討する目的で, MCTZの運動に伴なう変成作用と変形運動の解析, K-Ar年代やフィッション・トラック(F.T.)年代の測定を行ない, 以下の結果を得た. 1.ヒマラヤでは, 中生代以前にも複数の変成作用が考えられるが, 現在みられる岩石は, 古第三紀のバロビアン型変成作用と新第三紀のMCTZの衝上運動によるせん断熱変成作用とによる複変成作用の産物である. 2.変形運動はD_1〜_4の4時期が区分される. そのうち, D_2はMCTZの運動期にあたり, もっとも強くかつ広範にみられる. D_3・D_4は上昇期であろう. 3.角内在と黒雲母から得られたそれぞれ, 61.5±3.1, 56.7±2.8MaのK-Ar年代の意味はさらに検討を要するが, 現在のところ, 古新第三紀に推定されるバロビアン型変成作用の冷却過程を示すと考えられる. 4.F.T.年代測定は, アパタイト・ザクロ石についてはU量が少なく, 測定不能であったが, 4ケ所14点のヒマラヤ片麻岩から分離したジルコンは2.2〜0.6(±0.2〜0.1)Maの年代を示した. これらの年代は新第三紀のMCTZの運動に伴なう変成作用の冷却過程を示すと考えれらる. 5.各資料の採集高度と年代の関係から, 2.2〜.6Maの間で, 尾根部では3.24および2.39mm/年, 谷部では0.83および0.47mm/年の上昇速度を得た. ジルコンの閉鎖温度を200°C, 地温勾配を30°C/kmと仮定すると, 約1.9Maから現在までの上昇速度は3.5〜6.1mm/年と推定される. これはヒマラヤの上昇が第四紀に入ってから加速していることを示唆している.
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