13〜10万年前に現在の関東平野一面に広がった古東京湾に堆積した多量の砂はどこからもたらされたのだろうか? この砂の起源を深る基礎研究として、新開発した未固結砂の不攬乱試料から作成した定方位薄片の顕徴鏡観察に基づいて、堆積相解析から決定した古環境ごとの砂組成を明らかにした。下統台地を主に武蔵野・下末吉台・大宮台地の約250地点から採取した試料から薄片が作られた。古東京湾域の砂組成の特徴は次の通りである。 1.古東京湾域の砂組成の平均値は、単結晶石英39%、長石12%、岩石片49%、基質28%である。砂岩分類では『石質ワッケ』に属する。 2.後背地から流入する物質が同じ古鬼怒川系の筑波台地とその周辺台地の砂組成は、堆積環境ごとに相偉が認められる。岩石片に富む河川流路砂や、やや長石に富む沖合・沖浜砂、単結晶石英粒に富む海浜砂といえる。 3.堆積環境ごとの砂組成の違いは、砂粒子に与えたエネルギーの積算、つまり砂の成熟過程を示している。すなわち、波・潮流・沿岸流の運搬・淘汰による岩石片の破壊と分解、暴浪時の沖方向への流れによる長石粒の選択的な運搬、破壊に最も強い単結晶石英粒の残存という一連の過程である。 4.環境による砂組成の違いは、地域が異なっても成り立つが、その割合は異なる。利根川や荒川の影響が予想される野田・松戸地域の砂は、筑波台地の砂より単結晶石英粒の割合が少ない方に全体にずれている。これは筑波台地の砂が筑波花崗岩類に由来する安定な石英粒をより多く含むからで、供給源の違いが砂組成の地域差をもたらしている。 5.今後、分析試料を増やして、詳細な砂組成の特徴を明らかにするとともに、粒径分布特性や特定の鉱物粒子の化学分析などを行い、河川系ごとの特徴を知り、古東湾の砂の起源に迫りたい。
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