研究概要 |
阿武隈変成帯は日本を代表する変成帯の1つであり, 低圧・高温型の(空間的な)累進変成作用の見られる所として知られている. それにもかかわらず, 原岩の形成年代, 最終的に低圧・高温型の変成岩になるに至るまでの個々の岩石の経てきた温度・圧力条件の時間的変化(P-T-t path), およびそれと変形史との関係など, 基本的なことは不明のままであった. そこで, これらの点を解明するため, 地質調査, 化石探査, 岩石記載, 岩石・鉱物の化学分析等を行なった. その結果, 次の点が明らかにされた. 1.阿武隈変成岩のうちの一部(御斉所変成岩)からジュラ紀の放散虫化石が発見され, 原岩の形成時代が確定するとともに, 変成作用の時期に対する重要な制限がなされた. 2.阿武隈変成岩は, 白亜紀の花崗岩類によって, 広く接触変成作用を受けている. ある場合には, 斜方輝石と形成するような輝石ホルンフェルス相の条件も生じている. 3.構造的には, 御斉所変成岩が竹貫変成岩の上に衝上している. 4.御斉所変成岩は, 全変成作用を通じて低圧条件下におかれていた. それに対して, 竹貫変成岩は, 高温条件下で, 圧力が低→高→低と変化するような条件下におかれた. この等温加圧は比較的急速な現象であり, かつ, 高温条件の継続時間は短かかった. 従来, 阿武隈変成帯の複変成作用説の有力な証左とされた, 竹貫変成岩の藍晶状の藍晶石の産出は, 複変成作用を示すものではなく, 同一の変成作用の間の一時的な加圧を示すものと考えられる. また, 竹貫変成岩の一時的な加圧は, 御斉所変成岩の竹貫変成岩上への衝上運動によるものと考えられる.
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